Vol.8

10月5日、金曜日、曇

約1ヶ月の中国旅行から戻ったところです。

今回は、広西チワン族自治区の龍勝の棚田と、雲南省の元陽の棚田へ行ってきました。メインはこの2か所でしたが、ついでに大理・麗江にも寄ってきました。

ところで、まず雲南省昆明で面白い展示会が開かれているので紹介します。

「昨天 温情昆明」展という展示会で、雲南省博物館の3Fで、9月26日から10月15日まで 開催されています。入場料は2元。

「昨日の昆明の姿」を描いた絵と写真の展示です。絵(油彩 が多かったようです)は、60年代70年代のが中心で、あとで係員に聞いたところ、文化大革命時代にも、昆明在住の少数の画家が、絵を描いていたのだということです。 文革初期の、赤旗をなびかせたトラックが昆明の旧い街並を走っている絵もありました。

それにしても、あんな時代でも絵を描いていた人がいたというのは意外でした。しかも、その絵がものすごく明るいのです。年代が記入されていなかったら、明るくて平和なところだと思ってしまうほどです。時代の空気とのギャップが、面 白いと思いました。「文革」と聞くと、すべてが暗いイメージを浮かべてしまう俺の、単なる思い込みがあったかもしれませんが。日本でも戦争中、すべてが暗いことばかりではなかったはずです。ささやかながらも、家庭には小さな幸せがあったろうし、笑い顔もあったはずです。もちろん、文革中はこっそりと絵を描いていたというし、画家としては、せめても、絵の中に明るく平和な安らぎを求めたのかもしれません。

一方、写真の方は、80年代、90年代の写真でした。以前このエッセイでも触れた「武成路」の懐かしい雑踏や、「五一路」の屋台街の写 真もありました。年代不詳の、たぶん、みんなの服装 などから、80年代前半と思われる写 真もありました。フィルムにカビがはえていたらしく、プリントには、汚いアメーバのような模様も映っていましたが、むしろ、そのカビがまた時代を感じさせて、なかなか良かったのです。タンやツバを吐く音、喧嘩、「没有(メイヨウ)!」とヒステリックにさけぶ声、質の悪いガソリンからの排気ガスの匂い、人民の汗・・・。そんなものさえ蘇らせてくれました。街をうごめく、当時の人民が、写 真の中に生きていました。

絵にも写真にも、半分くらい「拆」のシールが貼られたものがありました。最初、「売却済み」のシールか何かかなと思って、係員に聞いたら、このシールが貼ってある建物は、もう今は見られないものだということでした。無くなってしまった風景に「拆」のシールが貼られていたわけです。辞書で調べたら「拆」は、[chai/チャイ]の発音で、「壊す」「ぶち壊す」という意味がありました。それを聞いて、もう一度全体を見直してみました。

写真というのは、おもしろいものだとあらためて思いました。これこそ記録のおもしろさです。

そしてこんな展示会が、今昆明で開かれていることが、昆明の急激な発展ぶりを物語ってもいるのです。わずか数年前の風景に懐かしさを感じる。無くなってみて初めて旧いものの価値に気がつく。昆明の人たちが、旧いものに価値を見い出すほど、彼らの生活は新しくなってしまいました。

9月28日、「花祭り」のパレードがありました。通りは花で飾られ、山車がいくつも出て、(世界各地の)民族衣装を着た人たちが、音楽に合わせて踊りを披露しました。このあと、10月1日には国慶節のパレードもあったはずですが、俺は30日に昆明を離れてしまったので、残念ながらそれは見れませんでした。また新しいビルが建ち、旧い通 りはますます少なくなっています。いろんなイベントを組んで、観光客誘致に必死のようです。昆明の人たち、あるいは中国全体が、前に進むしかないとでもいうように・・・。その先になにがあるか俺にはわかりません。中国人にもわかっていないはずです。ただ、そんな中でも、「昨天 温情昆明」展のような展示会に興味を示す人々もいることを知って、少し救われるような気がしました。


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