極楽トンボの日曜日  Vol.59

 
 

 2005年6月25日、土曜日

 イランの撮影旅行から戻りました。滞在中の話は、ブログでも更新していましたが、あらためてこのエッセイにも書いておきます。

 まず、最初はカスピ海地方を10日間ほどまわって、棚田をさがしました。 また、棚田か?とあきれる人もいるでしょうが、でも、イランの棚田はあなどれないですよ。 綺麗な棚田を見つけました。砂漠の国イランのイメージとはまったく違う世界です。 日本とそっくりな田園風景。 田植えをするおばさんたちの格好も、どこか懐かしい。 田んぼには、ミズスマシやオタマジャクシがいて、ここはどこなんだろう?と不思議 な感覚に陥りました。

  米もよく食べるんです。ご飯は「チェロウ」といって、パサパサしたインディカ米ですが、ほんのり塩味がきいています。 これにバターを混ぜ、焼いたトマトとグチュグチュにつぶし、カバブといっしょに食べるんですが、これがなかなか美味しい。

 ただ、ここも日本や他のアジアの国と同様に米離れが始まっています。知り合った30歳の女性は「太るからご飯は食べません」といいました。一時期の日本のようです。 「どうして米を食べなくなっているんですか?」と、40歳くらいの男に聞いたら、「アメリカに聞いてくれ」といいました。彼は大のアメリカ嫌いらしいですが、世界中の文化がアメリカ化していくのが我慢ならないのかもしれません。イランでもだんだん食生活は欧米化しています。まだマックなどのファーストフード店はありませんが、イラン風のサンドイッチ屋はたくさんあります。名前が「マック」ではないというだけで。

 カスピ海地方を回った後、テヘランからエスファハーンにいきました。

 エスファハーンは小奇麗な町でした。川には橋が架かっていて、夕方になると、たくさんの人たちが集まってきます。橋のたもとにチャイハネがあって、夕涼みしながらのお茶は格別 です。 俺のことを見て「チーン!チーン!」とからかう人間もいます。チーンとは、中国人のことなんですが、中国人なんて見たことあるんですかね? 映画でしょうか? 日本人だとわかると「フットボール ナカタ」といわれます。俺は日本でも中田に似ていると言われることがあるんですが。

 ある朝、エスファハン郊外のゾロアスター教の廃墟へバスでいったんですが、観光客もいなくて俺一人、そこに制服を着た警官が現れ、ずっとついてきました。カメラを貸せというので、仕方なく貸すと、勝手に撮り始めるし、これはまいったなぁという感じでした。

  たまたま近くには水田があって、廃墟から降りていってみました。エスファハーン郊外でも稲作が行われることは知っていましたが。 田植えの作業している4人の青年たちは、農家ではなくて、100kmも離れたところからバイクでやってきて、1日15ドルで田植えを請け負ってやっているということです。それと米の収量 なんかを、片言のペルシャ語と英語で根堀葉堀聞きました。

  さて帰ろうとしたとき、パトカーがやってきて、ずっといっしょだった例の警官が何か俺のことをパトカーの3人に説明したら、車に乗れといわれました。お偉いさんらしき人物が、本部と無線のやり取りを始めました。 しつこく田んぼのことを聞いたのがまずかったかなとか思いこんでしまい、これは、車に乗ったらやばいと思い、「近くの観光地に寄って帰るからいいです」と、断わりました。でも、後ろの座席には銃を持った警官もいて、4人から乗れ乗れといわれて仕方なく乗ってしまいました。

 結局、そのもうひとつの観光地まで乗せてくれただけだったが、冷や汗ものでした。別 に悪いことをしたわけではないのですが、警察署でいろいろ聞かれるのは覚悟したので、ほっとして、しばらくチャイハネで呆然としていまいた。田んぼの写 真撮ってスパイにされるわけないのにね。偽警官から金品騙し取られたという話を聞いたので、なおさら妄想が広がったようです。

 エスファハーンからペルセポリスのあるシーラーズへ。そして最後は沙漠の街ヤズドへ。日中は特に暑く、陰を求めて壁伝いに歩きます。 町の中に立つミナレットから見渡すヤズドの町並み。褐色の家並み、モスクや、バードギルと呼ばれる風採り塔が点在し、すばらしい眺めです。こういうのが。いわゆる「イラン」らしい風景でしょうか。カスピ海地方の緑豊かな、日本とよく似た風景は、俺たち日本人のイメージのなかでは、イランと結びつきませんでした。

  夕方ゾロアスター教の「沈黙の塔」へいきました。1リットルの水を持っていきましたが、すぐ飲み干してしまいました。地元の暴走族が夕方になると集まってくるスポットらしいですね。遺跡のなかを我が物顔で乗り回していました。観光客には迷惑な存在です。

 今回、イランではいろんなところで食事をしました。そしてひとつ気がついたことがあります。 それは食事が終わるやいなや、時によっては、まだ飲みかけやら食べかけやらがあるにもかかわらず、さっと食器を片付けられてしまうということです。客で混んでいるからではありません。俺しかいなくてもです。 この方がいいという人もいるでしょうが、俺はどうもせかされているようで、落ち着きません。片付けられないように、ソフトドリンクのビンに片手を添えて、持っていかれないようになどと、妙な気を使ってしまいます。 食事をゆっくり楽しむことが、さも、いけないことのように感じてしまいます。宗教と関係あるんでしょうか。 かと思えば、チャイハネに入れば、水タバコをくゆらせて、何時間でも居座り続けても文句は言われません。ドライブインや、安食堂だけなのか、たまたま俺が入ったところだけがそうだったのか。3週間しかいないので、はっきりわかりませんが。俺の印象です。

  そういえば、食事以外にも、たとえば、タクシーをチャーターして写 真を撮っているときも、せかされたことが多かったように思うし、たとえば、旧市街など歩いていて、親切心から声をかけてきて、こっちに何がある、あっちに何があると、次々にいろんなところに連れて行こうとしてくれる人がいます。こっちは別 に何を見たいというわけではなくて、その雰囲気にゆっくり浸りたいだけなので、どうも煩わしくなってしまう。

 イラン人の車の運転の器用なこと。車線はあってないがごとし。なんだかちょこまかちょこまかしている感じです。それと歩き方。俺は歩き方が遅い方ではないと思っていましたが、イラン人の歩き方は全般 に速いのではないでしょうか。もっとも、この暑さに参って、普段より俺のほうが遅く歩いているから、そう感じるのかもしれませんが。

  せかされた印象はありますが、それも許容範囲内のことだし、イラン人に対しては、「チーン!(中国人)」「アフガニー!(アフガニスタン人)」と、ちょっとからかわれたことが気になっただけで、全体的にはいい印象でしたね。初回がいいと、また行きたくなります。

 それと、これはガイドブックには載っていませんでしたが、意外とびっくりしたのは、男性トイレに「小」がなかったことです。あるのは、個室の「大」だけ。 バスの発車間際に駆け込んでも、「小」なら大丈夫とタカをくくっていると、乗り遅れるかもしれません。「大」しかないので、男便所を混んでいて、順番待ちしなくてはならないことがあるからです。しかも、並ぶのに慣れていない俺は、次々に抜かれてしまいました。 男も座って小便します。(もちろん立ってやる人もいますが)バスの車窓から見ていたとき、男が草むらに駆け込んで、座って「立ち小便」していました。 これは、健康上の理由(尿石がたまりにくい。本当か?)と、宗教上の理由があると、あるイラン人は教えてくれましたが。たしかパキスタンあたり他のイスラム国でもそうだったかな。俺なんか座って「小」をやろうとすると、「大」まで出てしまいそうで怖いんですが。

青柳 

 
 

 

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