Vol.18

 4月22日、日曜日、晴れ

 前回のエッセイ「山の郵便配達」の感想で、
  
>1980年代初頭が舞台設定ですが、中国の山奥では、いまだに実在する世界です。
 などと書きました。ところが、この前、これが中国だけの話ではなくて、現在の日本でも、「山の郵便配達」屋さんが存在することを知って、驚いてしまいました。

 先日、テレビで、静岡県、飯田線の小和田(こわだ)駅が紹介されていました。静岡、愛知、長野県の県境にありますが、この駅の近くには、20年前から民家が1軒しかありません。しかも、この駅や民家までは、車道がなく、鉄道で行くしか方法がないということです。

 小和田は、ちょっとした集落だったようですが、ダムができて集落が水没し、他の人たちはよその土地へ移住してしまいました。この民家に住んでいる夫婦だけがここに残り、今は、ふたりだけで生活しています。食料品やプロパンガスのボンベなどの生活必需品は、電話で注文すると、天竜川の対岸から、索道の小さなゴンドラで運ばれてきます。

 ここで登場するのが、スニーカーを履いて、ザックを背負った郵便屋さんです。新聞や郵便物をザックに詰め、隣の駅にバイクを停めて鉄道に乗り換え、小和田駅に行き、老夫婦の家に歩いて届けます。これはまさに「山の郵便配達」そのものです。

 老夫婦は、テレビのレポーターとのやり取りの中で、自分たちの暮らしが、それほど不自由はしていない、幸せだといった意味のことを何度か口にしました。テレビ向けのコメントであることを、割り引いて考えても、実際、そうなんだろうなと思います。でも、俺は住めないなとも思いました。

 以前、メコン河源流を訪ねて中国青海省にいったとき、チベット族から興味深い話を聞きました。それは、彼らが上海や北京へ行くと、「低地病」になるというのです。俺たちが、チベットへ行くと「高山病」になることはよく知られていますが、逆の立ち場になると低地が危険なんだと知って、おもしろいなと思いました。生まれたときから標高5000mくらいのところで生活していると、低地の空気は濃すぎるということなのでしょうか。

 もっとも、彼らの話をよく聞いてみると、空気が濃いことが原因ではなくて、工場や車の排気ガスなどで空気が汚いので、病気になるのではないかとも思えます。精神的ストレスなんかもあるでしょう。いずれにしても、彼らは高度が低い、町には住みたくないようでした。「馬にものれなくなるし・・・」と彼らはいいました。自分が生まれ育った環境が、一番居心地がいいという感覚は、みんな同じではないでしょうか。

 ここで、「あなたは幸せですか?」などと聞いてしまったテレビのレポーターのことが気になりました。旅行記のなかにも、よくありますね。チベットの遊牧民に「あなたは幸せか?」などと聞いているやつ。(誰も「私は、不幸です」などとは答えません) いや、素直にそう聞いてしまいたくなる気持ちはわかります。俺も、どこかで聞いたかもしれません。でも、なんかへんです。

 レポーターの気持ちの中には、こんな不便で厳しい環境で生きていても、「幸せです」と言ってもらうことで、番組としてまとまるという考えはあったのでしょう。貧乏な国の飢えた子どもたちを紹介して、「彼らは経済的に貧しい。でも目がキラキラしている。日本の子どもよりも幸せだ」などと平気で言ってしまうレポーターや作家ほどひどくはありませんが、やはりどこかに、ごう慢さが見えかくれします。目がキラキラしてるのは、栄養失調で、目玉 が前に突き出しているからかもしれません。日本の子どもはパソコンゲームに目が疲れて、キラキラして見えないかもしれませんが、ゲームに熱中できて幸せだと思います。

 小和田の老夫婦の生活は、たしかに不便ですが、それは、俺(たち)の感覚から見た「不便さ」であって、彼らは、それが日常生活で、普通 のことだし、そのことだけで幸か不幸かの原因にはなりえません。チベットだろうが、小和田だろうが、中国の山奥だろうが、生活は生活です。環境には慣れるものです。また、慣れなかったら、日常生活なんかしていけません。老夫婦だって、ほんとうは、便利な場所に引っ越したいのかもしれない。でも事情があってできないのかもしれない。でもできない。それなら、環境に慣れて、がんばるしかないのかもしれない。

 自分の幸不幸を、他人との比較でしか実感できないって、なんだか寂しいなと思います。誰がなんと言おうと関係なく、「俺は幸せなんだ」と思えるように生きていきたいと願ってはいるのですが、どうしても、隣の芝生がきれいに見えたり、汚く見えたりしてしまいますね。

 小和田の番組で、気になったのは、レポーターが、老夫婦の「幸せです」という言葉を、無理矢理ではないにせよ、言わせたことが、どうもごう慢さを感じさせたということです。気にしすぎでしょうか?

青柳  

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